社内の情報共有が上手くいかず、社員のスキルアップもなかなか進まずに困っている企業も非常に多く見られます。
SECIモデルというワードをビジネス上でよく耳にして、気になっている方も多いでしょう。
そこで、本記事では、企業の情報共有や社員のスキルアップにも関わるSECIモデルについてわかりやすく解説します。活用事例や問題点についても紹介しますので、SECIモデルに興味のある方はぜひ、参考にしてください。
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SECI(セキ)モデルとは
SECI(セキ)モデルとは、各社員が持っている知識や経験を社内全体に共有して新たな技術を生み出すフレームワークのことを指します。
一橋大学大学院の教授が提唱したことで知られていて、企業における知識や経験の社内共有の基礎理論として使われています。
SECI(セキ)モデルは、おもに4つのプロセスで構成されています。これらのプロセスを上手く活用することで企業におけるベテラン社員の知識や経験を社内全体で共有することが可能です。
これにより、社員全体のスキルアップ向上にもつながります。
SECIモデル 4つのプロセス
SECIモデルのおもな4つのプロセスは、下記の通りです。
- 共同化プロセス
- 表出化プロセス
- 連結化プロセス
- 内面化プロセス
それぞれ順番に解説します。
共同化プロセス
共同化プロセスは、口頭や言葉ではなく自分自身の体験や経験を他の人に情報共有するプロセスです。
職人気質の方のもとについて仕事を見て、実際にやってみて覚えていくのと同じような感覚でしょう。お互いに理解したかどうか確認しながら進めていくのが大切です。自分自身の体で覚えたことや、仕事に対する感覚を出来る限り具体的に表現して情報共有します。
表出化プロセス
表出化プロセスは、社員個人の知識や経験から完全に社内全体の共有知識へと変化させるプロセスのことをいいます。
知識や経験をわかりやすい言葉や図などにして他の人と情報共有します。企業においては報告書や業務マニュアルなどが該当するでしょう。
連結化プロセス
連結化プロセスは、表出化プロセスで抽出した知識をさらに他の知識と組み合わせることで新たな技術を生み出すことを目的としたプロセスです。
具体的には自分自身の仕事のやり方に他の人の知識や技術を盛り込んで、新たなスタイルを確率することを指します。これにより、業務効率化を図れたり、新たな商品やサービスを生み出すことができます。
内面化プロセス
内面化プロセスは、連結化プロセスによって新たにつくりあげたスタイルを各社員で習得するために何度も学習することを指します。何度も学習して知識や技術を今度は自分自身のスキルとして吸収させる段階です。
どれだけ新しいパソコンやソフトであっても毎日、何度も使用するうちに説明書を見なくても操作できるようになり、自分なりの工夫でさらに上手く使いこなせるようになるケースと同様です。
共同化・表出化・連結化・内面化の4つのプロセスを繰り返すことで、各社員の知識や技術が格段にあがり最終的には企業全体の知識財産として蓄積されていきます。
なお、これらのプロセスを通して知識や技術を企業などの組織内に共有していくことをナレッジマネジメントといいます。
SECIモデルに必要な4つの場と具体例
前述にて紹介した4つのプロセスを効率的におこなうためには、下記のようなそれぞれのプロセスに合わせた場が必要であるといわれています。
- 創発場
- 対話場
- システム場
- 実践場
それぞれ順番に解説します。
創発場
創発場は、共同化プロセスで他の人と知識や技術に関する情報交換をおこなう場です。
業務のなかでしか得られない情報もありますが、ランチの場や休憩スペースなどで得られる情報もあります。創発場では気軽なコミュニケーションをおこなうことによる効果的な共同化プロセスの実現を目指しています。
なお、創発場の具体例は下記の通りです。
- ランチ、飲み会
- 休憩スペースでの雑談
- チャットルームでの会話
- 座席をフリーアドレス制にすることによるコミュニケーション活性化
対話場
対話場は、自分自身の知識や技術を他の人に情報共有するために欠かせない場です。
報告書やマニュアル、資料作成の際の会議を通して情報共有していきます。創発場はあくまでも気軽なコミュニケーションから情報を得ることを目的としていました。しかし、対話場は通常業務のなかで情報共有をおこなうことを目的としています。
対話場では雑談で終わってしまわないよう、知識や技術をしっかりと他の人に情報共有するという意識を持つことが大切です。なお、対話場の具体例は下記の通りです。
- 会議
- 報告書、マニュアル、資料作成時
- 会社合宿
システム場
システム場は、連結化プロセスにおいて知識と知識をかけあわせて新たなスタイルを確立するときに必要な場です。
システム場では各社員が積極的に自分自身の知識や技術を共有できる環境が重要です。そのため、直接の話し合いではなく、むしろオンラインミーティングやチャットツールを使った会議が有効でしょう。
実践場
実践場は、自分自身のスキルとして改めて吸収するための段階である内面化プロセスで重要な場です。
この実践場は個人でスキルを習得しなければならないので、特に他の人と集まるような場はありません。各社員のデスクや作業場、自宅でも可能なので、それぞれに合った場所でスキル習得を目指しましょう。
ビジネスにおけるSECIモデルの活用例
こちらで紹介するビジネスにおけるSECIモデルの企業活用例は、下記の2点です。
- NTT東日本
- エーザイ
それぞれ順番に解説します。
NTT東日本
NTT東日本の営業部ではいち早くSECIモデルを活用したナレッジマネジメントを実践したといわれています。
リアルな対話場とバーチャルなシステム場を上手くかけあわせたナレッジマネジメントを実現しました。社内のオフィスレイアウトを変更したり、社員全員の個人ホームページ制作をおこなったりと積極的に活動しています。
なお、NTT東日本における4つの場の具体例は下記の通りです。
- 創発場:座席のフリーアドレス制を導入
- 対話場:社員の打ち合わせスペースの設置
- システム場:各社員の個人ホームページ制作
- 実践場:集中して業務をおこなえる作業スペースの設置
エーザイ
エーザイは医薬品メーカーではありますが、積極的にSECIモデルを取り入れていることで有名です。エーザイはSECIモデルのなかでも共同化プロセスを重要視しています。
なお、4つのプロセスの具体例は下記の通りです。
- 共同化プロセス:介護実習などを通した患者様の理解向上
- 表出化プロセス:介護の現場で気づいたことについて報告、会議をおこなう
- 連結化プロセス:エーザイの各部門の代表者を選出して話し合いの場を設ける
- 内面化プロセス:自分自身の仕事内容を見つめ直すための時間を設ける
さらにエーザイでは、SECIモデルの考え方を社内に浸透させるために知創部という部署を設置しています。そのため、各社員の方々が日頃から4つのプロセスについて意識しながら業務をおこなえる環境が整っています。
富士ゼロックス
富士ゼロックスも製品開発の過程のなかにSECIモデルを導入しています。
SECIモデルによってエンジニアとして知識を深め、よりオリジナリティのある製品開発を目指しています。なお、富士ゼロックスにおける4つのプロセスの具体例は下記の通りです。
- 共同化プロセス:設計の時点で対話場を設けて情報共有をおこない、初期段階から製品の問題点を洗い出す
- 表出化プロセス:オンラインによる設計情報共有をおこない、定期的にエンジニアとしての知識や技術吸収の場を設けている
- 連結化プロセス:各エンジニア部門の上司が最新の製品情報や市場におけるデータなど重要な情報を洗い出して共有するようにしている
- 内面化プロセス:共有された重要情報をリストとしてまとめて、常にエンジニアが知識を吸収できるようにしている
SECIモデルの課題・問題点
SECIモデルにおける課題・問題点は下記の通りです。
- 経験豊富な社員が知識や技術を共有するメリットがない
- 知識や技術の習得にも時間がかかる
- SECIモデルに明確なゴールが存在しない
それぞれ順番に解説します。
経験豊富な社員が知識や技術を共有するメリットが少ない
ベテラン社員となると多くの知識や技術を習得していますが、その知識や技術を他の社員に共有するメリットが少ないというのがSECIモデルの課題です。
ベテラン社員は忙しく、また、時間をかけて自分自身で習得した知識や技術を簡単に他の社員に共有したくないという方も多いでしょう。これらの課題を解決するためにはベテラン社員に対して業務負担軽減など将来的にはメリットがあることを上手く伝える必要があります。
また、情報共有によるインセンティブを設けるなど付加価値をつけることも大切です。
知識や技術の習得にも時間がかかる
知識や技術を提供するベテラン社員側にも課題はありますが、情報共有される各社員側にも問題点はあります。
情報共有された側はその知識や技術を自分のなかに吸収しなければならず、それも業務の合間を縫っておこなわなければなりません。ベテラン社員から知識や技術を情報共有されたとしても、それを自分自身の知識として吸収するまでには時間がかかります。
SECIモデルのプロセスのなかで内面化プロセスが最も個人の能力に左右されやすいのです。ただ万が一、各社員の知識吸収に時間がかかったとしても、ベテラン社員の方が知識や技術を情報共有してくれただけで大きな一歩ともいえるでしょう。
SECIモデルに明確なゴールが存在しない
SECIモデルにおけるプロセスは、最終的には個人の能力に依存します。SECIモデルには明確なゴールは存在しません。さらに、ナレッジマネジメントについてもすぐに効果が出るわけではないので、ゴールが見えにくいでしょう。
そのため、SECIモデルは最初からゴールすることを求めず、過程を大切にして時間をかけてナレッジマネジメントしていくことを考えることが大切です。ナレッジマネジメントの活動を始める前と後で比較しながら、少しの変化も大きな一歩ととらえましょう。
SECIモデルを活用して社内のナレッジマネジメント効率的に進めよう
本記事では、SECIモデルについてわかりやすく解説しました。
SECIモデルとひとことにいっても、4つのプロセスを上手く盛り込みながらナレッジマネジメントを進めていかなければなりません。4つのプロセスに合わせて必要になる場も企業に設ける必要があるでしょう。
ビジネスにおいてはすでに多くの企業でSECIモデルの活用がおこなわれています。確かにSECIモデルにはまだまだ問題点もありますが、企業に合わせて上手く活用することで各社員のスキルアップにつながるでしょう。
ぜひ本記事を参考に、SECIモデルを活用して社内のナレッジマネジメントを効率的に進めてみてはいかがでしょうか。