「開業前に買ったパソコンは経費にできる?」
「パソコンの値段で経費の処理方法はちがう?」
開業前にパソコンを購入するとき、このような疑問を持つ方は多いのではないでしょうか。
開業前に買ったパソコンは経費にできます。
しかし、価格帯によって経費処理が異なります。
また、どのくらい前まで開業の準備期間とみなされるかも注意が必要です。
そこでこの記事では、「開業前や起業前に買ったパソコンは経費にできるのか、価格帯ごとの処理方法」などについて解説します。
開業・起業の参考にしていただければ幸いです。
開業前・起業前に買ったPCは経費にできる
開業前・起業前に買ったパソコンは、経費として計上することができます。
パソコンの価格帯によって処理の方法や、経費にするタイミングが異なりますので、その点は確認しておきましょう。
そして、開業後にパソコンを買った場合も経費にでき、開業前と後でどちらが得ということもありません。
開業前でも後でも経費にできますので、パソコンを買うタイミングを見計らうくらいなら、開業前・起業前に購入して、快適な環境でビジネスをはじめましょう。
開業前・起業前にPCを買う3つの注意点
開業前にパソコンを買う場合にご注意いただきたい、「準備期間は最長1年」「開業と起業の経費処理は同じ」「パソコン価格の考え方」について解説します。
税務調査で認められる準備期間は最長1年程度
開業前・起業前とみなされるかどうか、については注意が必要です。法律で厳密なルールはありませんが、新しくビジネスを始める準備期間として、税務調査などで認められる必要があります。
しっかりと説明できるように準備しておきましょう。
通常、税務調査で認められる準備期間としては、半年から長くて1年程度です。
開業前と起業前で経費処理の方法は同じ
また、開業前と起業前で経費処理の方法は同じです。
開業と起業のちがいは、次のようになります。
開業 | 個人が新しくお店や事務所をスタートすること |
起業 | 新しく事業をスタートすること |
開業も起業も新しくビジネスをスタートすることにちがいはなく、あまり区別なく使われていることが大半です。
パソコン価格には周辺機器なども含める
開業前に買ったパソコンは10万円未満なら「開業費」、10万円以下なら「固定資産など」として経費計上していきます。
ただし、パソコン価格の計上方法には注意が必要です。
経費処理のときには、パソコン本体だけではなく周辺機器や設定費用も含くめて計算します。
パソコン一式という考え方で、「本体+モニター+キーボード+マウス+設定費用など」で計算します。
10万円未満のパソコンを購入したのに、周辺機器などを入れると10万円を超えてしまい、経費処理が大きく変わってしまうこともありますので、ご注意ください。
また、消費税についても注意が必要です。
消費税免税事業者の場合には、税込価格でパソコン金額を判断することになります。
パソコン金額 | 本体+周辺機器+設定費用など一式 |
個人事業主の場合、開業から2年間は消費税免税事業者となりますので、税込価格で考えるようにしましょう。
消費税の免税事業者 | 税込価格がパソコン取得金額になる |
■参考:国税庁「消費税等の経理処理方式の違いによる少額の減価償却資産の判定」
個人事業主がPCを買う場合の経費処理
個人事業主が、開業前に買った10万円未満のパソコンは「開業費(繰延資産)」として扱えます。10万円以上のパソコンは固定資産などとして経費処理していきます。
パソコン価格帯別の経費処理方法は、次のようになります。
【個人事業主】 パソコン価格 | 開業費 | 一括償却資産 | 少額減価償却資産 の特例 | 固定資産として 減価償却 |
10万円未満 | 10~20万円未満 | 10~30万円未満 | 10万円以上 | |
5年均等償却 または任意償却 | 3年均等償却 | 一括償却 | 4年or5年で 減価償却 | |
10万円未満 | ● | × | × | × |
10~20万円未満 | × | ● | ● | ● |
20~30万円未満 | × | × | ● | ● |
30万円以上 | × | × | × | ● |
1)開業費
- 10万円未満のパソコンなど
- 開業前の準備中に支出した費用
- 繰延資産として取り扱い
- 5年で均等償却
- または任意償却として好きなタイミングで経費処理
- 個人と法人で取り扱いが異なる
2)一括償却資産
- 10万円以上20万円未満のパソコンなど
- 3年で均等償却
3)少額減価償却資産の特例
- 10万円以上30万円未満のパソコンなど
- 青色申告をしている個人事業主または中小企業
- その年に一括償却できる
- 合計で300万円まで
- 現状では令和6年3月31日までに取得した資産が対象
4)固定資産として減価償却
- 30万円以上のパソコンなどは固定資産として減価償却
- 10万円以上30万円未満のパソコンも任意で減価償却できる
- 法定耐用年数で減価償却
- 一般パソコンは4年、サーバーパソコンは5年で償却
■参考:国税庁「減価償却のあらまし」
■参考:国税庁「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」
PC価格帯ごとの経費処理
それでは、PC価格帯ごとの経費処理方法について解説します。
PC価格が10万円未満の場合
10万円未満のパソコンを買った場合は、「開業費」として経費処理します。
開業費は、5年均等で経費にするか、任意償却として自由に償却するかを選ぶことができます。
例えば、5万円のパソコンを買った場合、5年均等で毎年1万円ずつ経費にすることもできますし、その年に自由に金額を決めて処理することもできます。
実務上は、任意償却を選択することが大半になります。
開業費の任意償却は、事業主がいつでも自由に経費にすることができるので、最適な節税対策をすることができます。
「今年は黒字なので5万円全額経費にする」や、「今年は赤字なので経費にしない」などを自由に決めることができるのです。
PC価格が10万円以上20万円未満の場合
10万円以上20万円未満のパソコンは、次の方法を選択して経費処理できます。
- 一括償却資産
- 少額減価償却資産の特例
- 固定資産として減価償却
実務上では、「一括償却資産」か「少額減価償却資産の特例」で処理することが大半です。
「一括償却資産」の場合には、年度内いつ購入してもその年に3等分した費用を計上することができるため、通常の固定資産のように月割計算をする必要がありません。
また、「少額減価償却資産の特例」であれば、その年に一括して経費計上することができます。
黒字が多い場合には「少額減価償却資産の特例」、経費を持ち越したい場合には「一括償却資産」を選択するなど、節税対策を考えて選択しましょう。
PC価格が20万円以上30万円未満の場合
20万円以上30万円未満のパソコンは、次の方法を選択して経費処理します。
- 少額減価償却資産の特例
- 固定資産として減価償却
「少額減価償却資産の特例」は、パソコン1式が10万円以上30万円未満であれば、合計300万円まで適用できます。
1式25万円×10台=250万円などのように、決算が黒字のときであれば、非常に大きな節税効果が期待できます。
ただし、その決算期にそれほど大きな節税が必要ない場合は、「固定資産として減価償却」する方法も有効です。
PC価格が30万円以上の場合
30万円以上のパソコンを買った場合は、「固定資産として減価償却」することができます。
パソコンの償却期間については、用途によって耐用年数が決められており、サーバーとして利用する場合には5年、その他は4年となります。
それぞれの年数に応じて経費にすることができます。
法人がPCを買う場合の経費処理
法人は、個人事業主と処理の方法が少し異なります。
会社設立前の費用は「創立費」、設立後の費用は「開業費」として処理します。しかし、創立費や開業費として経費にできるものには制限があります。
そのため、業務用のパソコンは創立費や開業費に該当せず、通常の経費と同じ取り扱いになります。
法人で開業前に買ったパソコンは、価格帯に応じて次のように経費処理ができます。
【法人】 パソコン価格 | 消耗品費 | 一括償却資産 | 少額減価償却資産 の特例 | 固定資産として 減価償却 |
10万円未満 | 10~20万円未満 | 10~30万円未満 | 10万円以上 | |
一括償却 | 3年均等償却 | 一括償却 | 4年or5年で 減価償却 | |
10万円未満 | ● | × | × | × |
10~20万円未満 | × | ● | ● | ● |
20~30万円未満 | × | × | ● | ● |
30万円以上 | × | × | × | ● |
PCを現物出資する場合
現実的なケースでは、開業前に自己所有のパソコンを現物出資して使こともあるでしょう。
この場合には、パソコンの金額によって開業品、消耗品費、一括償却資産、少額減価償却資産の特例、固定資産のいずれかで経費処理することになります。
10万円未満の現物出資パソコンの場合、個人事業主は開業費、法人は消耗品費などになります。
【現物出資】 パソコン価格 | 個人:開業費 法人:消耗品費 | 一括償却資産 | 少額減価償却資産 の特例 | 固定資産として 減価償却 |
10万円未満 | 10~20万円未満 | 10~30万円未満 | 10万円以上 | |
開業費:5年均等または任意償却 消耗品費は一括 | 3年均等償却 | 一括償却 | 4年or5年で 減価償却 | |
10万円未満 | ● | × | × | × |
10~20万円未満 | × | ● | ● | ● |
20~30万円未満 | × | × | ● | ● |
30万円以上 | × | × | × | ● |
中古のパソコンという取り扱いになりますので、取得金額の算定にはご注意ください。中古相場をしっかり調べて、適切な金額で処理するようにしましょう。
開業前・起業前にパソコン購入した場合まとめ
開業前など新しいビジネスの準備中に買ったパソコンは、経費計上することができます。ただし、開業前の準備期間とみなされるのは、一般的に半年から最長1年程度になりますのでご注意ください。
もちろん、開業後にパソコンを買った場合も経費計上できます。開業前と後でどちらが得ということはなく、どちらも経費計上できます。
パソコンを買うタイミングを見計らうくらいなら、開業前・起業前に購入して、快適な環境でビジネスを進めましょう。
ただし、「個人事業主と法人」「パソコンの価格帯」によって、経費処理の方法が異なりますので、しっかりと確認するようにしましょう。
パソコンの取得価格には周辺機器(マウス、モニター、キーボードなど)や設定費用なども含まれます。また、消費税免税事業者がパソコンを購入する場合には、税込価格が取得費になります。この2点には注意が必要です。